さいけでりっく・さぶりみなる

あんどおひふみの活動ログ

EP.0 昼行灯、クンヴィラに出会う①

あるいは、いかにしてクンヴィラ・ラガートとフォウン・シルウァはニコイチと看做されるに至ったか。

 

  *  *  *


 学園都市テーテン・ト・イフェル、クロー寮内に設置された談話スペース。
 フォウン・シルウァは簡素な肘掛け椅子にひょろ長い身を沈め、次の授業までの暇をつぶしていた。右手の指先に挟んだ紙巻煙草を時折口元に遣り、天を仰いで紫煙を吐く。左手で開いた教科書にぼんやりと鳶色の瞳を向けてはいるが、フォウンの視線は先ほどから同じ行ばかり追っていた。
 やがてフォウンはため息をつくと、本を閉じた。
(だーめだ、集中できん)
 彼が短くなった煙草を足もとで踏み消し、次の一本に火をつけたときである。
 ざばり、と目の前の水路から人影が現れた。
 テーテン・ト・イフェルにはフォウンのような人間の他にも、様々な種族の生徒が通っている。中には水中を主な生活の場としている者も珍しくはない。フォウンも既に4年生。入学した当初こそ驚きもしたが、今ではもはや普通の光景だ。
 そうであるにもかかわらず、フォウンは唐突に現れた相手を注視せざるを得なかった。
 理由は単純である。
(うおっ、怖っ!)
 容貌が恐ろしかったのだ。
(女の獣人……あの尾はワニ、か? でかいし、長いし、なんか尖ってるし!)
 奇妙な外見の者など見慣れてはいたが、慣れたからといって恐ろしくないわけではない。
 ワニの特徴を持った女は、濃い赤色の編髪を振って水気を切りながらフォウンの方へと歩いてくる。濡れた衣服から床に水滴が落ちる音の合間に、雑に突っかけたビーチサンダルがきゅっきゅっと足音を立てる。
 その女がいかにも爬虫類らしい尾を振り振り談話スペースへと近づいてくるのは、どうやら彼女も灰皿を求めてのことらしい。
 既に自身の煙草に火をつけてしまっている手前、フォウンもすぐにその場を離れるわけにもいかなかった。

 フォウンは、なるべく関わりあいにならないように目を逸らし、口を噤み、ひょろ長い体躯を押し込むように椅子に収め、煙を吐く息さえ可能な限り音を立てないように努めようと決意した。